【連載】痛みをとる技術【第5弾】

【関節リセットストレッチ】ターゲットは筋肉と筋膜と関節 膝の痛みに対応する③-

膝の外側痛予防のリリース
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ポールやボールで主に狙っていくのは、足の付け根の大腿筋膜張筋から腸脛靭帯を通って膝上までになるのですが、名前を覚える必要はありません。出来れば一度検索していただいて、ザックリとお尻から足の外側にかけてのこの辺り、と理解してもらえれば十分です。
「写真みたいなリリースなら知ってるー」と思った人もいるかも知れませんが、今一度、慎重に、時間を掛けて、よーく身体の声を聞きながら、痛みを探っていってください。写真のような「型」をこなすのではありません。「身体との対話」するのです。それを意識することで、その「型」は、私が教えなくとも多くのヴァリエーションを生み出すことになります。

貴重な経験。身体との対話をはじめたきっかけ
リリース前に。この個所のリリースは、初めて経験される方にとっては激痛を伴うことがあります。私も最初に経験した時は、剣山でザクザク刺されるような痛さを感じました。手に汗を握り、額から流れ出た汗が顎から滴り落ちていました。
「そんなに痛い方法をとってはダメだ」という人もいるでしょう。確かに一理あります。筋肉への過剰な痛みは、筋の緊張を生み出し、上手く伸びなくなってしまう一面もありますから。私も人の身体を触る時は、痛みの出ない、揉み返しのない手技をとります。しかし今問題にするのは自分の身体です。触ってやるまで傷めていたことに気付いてやれなかった自分の身体です。こんなにも痛い痛いという信号を送っていたのに、何のケアもしてやれてこなかった自分の身体です。その身体に対する謝罪と、これまで支えてくれて、これからも支え続けてくれる感謝の気持ちを持って、痛みを受け入れてください。そして絶対に治してやるからな、と、強い信念を持ってください。

「痛みこそ身体が訴えるSOS信号」です。痛過ぎはNGですが、イタ気持ち良い状態を見つけることは、必須条件です。そのイタ気持ち良い状態を見つけ出すまでに、痛過ぎる状態も経験するでしょう。しかしその経験こそが尊いのです。痛みの感じ方や、筋肉の性質には個人差があります。どの程度の痛みなら自分は大丈夫なのか? 効果的なのか? それは自分で試していくしかないのです。自分でやるからこそ、痛くても意識的にリラックスしてリリース出来る状態を生み出せるのです。

私は膝にも腰にも大きな怪我を抱えていました。痛み止めを飲んだり、湿布を貼ったりしてやり過ごそうとしていた時は、全く気付かなかったのですが、時間を掛け、全身をくまなく、丁寧に、慎重に触っていってやると、身体のあらゆる所から、SOS信号が発せられていたことに気付き、愕然としました。そんなになるまで痛みの信号を出さずに黙っていてくれた身体のあらゆる組織に対して、猛烈に反省をしました。そして何十年もの間、黙って自分の身体を支えてくれてきた事に心から感謝しました。だから、絶対に痛くない状態にしてやる!と思って、このリリースをはじめました。身体に対する『反省と感謝』。これが根底に無ければ『型』だけ追いかけても、期待する効果を最大限に得られることはありません。

手で触れたり、ポールやボールを当てたりすると汗が止まらないぐらい痛いのに、触れなければ痛みを感じることがないのが筋肉や筋膜です。健康な状態の筋肉や筋膜は、触れようが押さえようが伸ばそうが、そう痛くはありません。つまり筋肉や筋膜の痛みこそ初期のSOS信号であり、その痛みを発見し除去できるかどうか?が、慢性的な関節の痛みを引き起こさないための有効な手段の1つなのです。

慎重に、注意深く、段階的に、身体の声を聞く
まずは型から入りましょう。
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写真のように構え、ポールに沿わせて身体をスライドさせます。
脚の真横、やや前側、やや後ろ側など微妙に場所を変えて。
膝を伸ばした状態と、軽く曲げた状態でもアタリは違ってきます。

続いて真横の体勢から、身体を前後に30度ずつ回転させます。
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脚を当てている箇所を被せて起こす、という感じです。
脚横側の上部、中部、下部と、当てる個所を少しずつ移動させて行います。

全てにおいて共通していることは痛すぎる刺激はNGです。イタ気持ち良い状態がベストですので、最初の入りこそ最も慎重に行うことが大切です。いきなり全体重を乗せると、場合によっては、ちょっとした拷問になります。ビリビリと足首の方まで痺れる感覚を持つかも知れません。その場合は、強度が強すぎるのと、当てる個所がダイレクト過ぎるので、少し場所をずらし、体重の掛かりを軽くすれば大丈夫になると思います。また痛くて動かすことも出来ない人も中に入ると思います。その場合は動かさずに当てているだけでも大丈夫です。当てた状態でリラックス&深呼吸でキープし、徐々に痛みが和らいでいく感覚を掴んでください。で、次の段階はこのリラックス&深呼吸です。

リラックス&深呼吸
上で紹介したようなことならやっているけど痛くない、という人もいるでしょうし、初めてやってみたけど全然痛くない、という人もいるかも知れません。そういう方は、恐らくポールが当たっている箇所の力が抜けきっていません。動物は外からの刺激に対し、反射的に筋肉を緊張させて身を守るという本能があります。野球のデッドボールや、ご自身にモノが当たる直前の動作を思い浮かべてもらえれば分かると思います。当たる直前に、背中を丸め、脇や肘をたたみ、全身を硬直させているはずです。反射的に大の字になる人はいないでしょう。自分で加える力であっても、それは脳からの指令であり、筋肉にとっては外部からの力に変わりないので、無意識に硬縮し、内部を守ろうとします。外側の筋肉をガチガチに固めた状態で、いくらリリースを行っても、効果は20%得られるかどうかです。私がターゲットにしているのは、表面の筋肉や筋膜や靭帯だけでなく、骨に近い深層部の癒着した組織です。そこまで到達できるかどうかが、膝の痛みを未然に防げるかどうか、また膝の痛みを自力で治せるかどうかの大きなポイントとなります。このリラックス&深呼吸をクリアできれば、最後、骨に近い深層部の組織を剥がすイメージを持ったリリースになります。

骨から組織を引き剥がす
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リラックス&深呼吸をして、紹介したリリースを実践すれば、格別に痛い箇所が見つかると思います。コリコリしている事が多いせいか、一般的には「コリ」と呼ばれています。最近ではトリガーポイントという言葉で表現されることが多くなってきました。
そのコリッとした部分にボールを当て、リラックス&深呼吸をして、体重を徐々に乗せ、患部を押さえつけた状態で、少しだけ横にスライドさせます。リラックスした状態で、骨まで押し当てて、肉をちょっと横にずらす、という感じです。
「コリをほぐすマッサージ」「トリガーポイントのリリース」「極小単位でのストレッチ」「ロルフィング」「筋膜リリース」などなど、呼び方が色々あり、それぞれに主張があって、並べられたくないと言うでしょうが、私にはどーでもいい話です。1人ひとりが自分でコンディショニングする術や、病気にならない知識を身につけられるのなら、それがいいのです。

ここでまだ最初の一歩
ここまでやれば大丈夫なのか?と言われれば、まだ不十分です。これが最初の一歩なのです。段階としては、まず組織の癒着を剥がしてやる→→→低負荷でゆっくりと最大可動範囲を動かし、筋肉、筋膜、神経、脂肪、血管など、あらゆる組織に「これが本来あるべき動きの基本だ」という事を教えてやる→→→少しずつ負荷をかけ強度をあげ、筋力をつけていく→→→連動性をもった複雑な動きを慎重に、ゆっくりと身体に記憶させる→→→徐々に高強度で複雑なトレーニングにも耐えられるようになる。という流れです。更にこれと同時並行で、細胞の分解と合成に必要な栄養素を、十分に24時間補給してやれる食生活の改善と、酸素を十分に取り込める呼吸の意識が整うと、回復は劇的に早まります。それを習慣化しているカッサーのカズ選手や、野球のイチロー選手などは、怪我が少なく、あの年齢でも本人は「やれる」と言っているのです。そんなこと理解できないメディアがほとんどなので歳だ歳だと言われていますが、ご自身で出来るところまで実践してみれば分かります。身体は10歳も20歳も若くなり、格段に動きやすくなります。

本コラムの執筆者
生西 聖治

ボディメイク&ボディケアハウス
代表:生西 聖治
一般社団法人日本トレーナー協会代表理事

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